2012博多「海の砦」
桃山特別インタビュー 聞き手 秋浜立
――あれから考えは変わりました?
変わらない。でも台本は書くよ。少しずつ出してるだろ。
――では前回約束したご質問を。
勝手に約束にするなよ。答えたくないことだってあるんだから。
――ご自分の最大の欠点は?
おんなの気持ちがわからないこと。
――最大の長所は?
おんなの気持ちがわからないこと。
――愚問でした。
ひとからはせっかち過ぎると良く叱られる。
――たとえば?
みんなで旅公演に出たことあるだろ。サービスエリアなんかで休憩するとき桃山は必ず停車する前に扉をあけて降りてしまうって淺野が笑っていたよ。
――副司令官の行動が早すぎて、ぼくらもついていけないことがままあります。
余裕がないんだなこころに。その点左門は立派だよ。いったことをやらなくてもまったく反省しない。「そうです。そうです」の自己追認の繰り返しだもんな。
――あいつは怠けているだけですよ。
でも、あんまり仲間割れするなよ。おまえの右腕なんだから。
――桃山さんはたくさんの書物に囲まれて台本を書いているというイメージがあります。ぼくもお宅にお邪魔するとき、また本が増えているという印象をもちます。
万巻の書、万里の道をゆく。この精神で勉強したいんだ。
――じっさい、書斎が三部屋。ゆうに一万冊は超える蔵書だと思います。しかもほとんど学術書。演劇書はほんの僅か。桃山さんにとって知識とはなんですか?
演劇書なんかから影響うけたらダメだよ。シェイクスピアは価値あるけどな。むしろ読んでも理解できないものにあたるんだ。ニュートンの「プリンキピア」とか。何度も眼をとおしているうちに、近代科学の始祖は同時に最後の錬金術師でもあったことが腑に落ちてくる。こうなりゃ、芝居の領域。物語が浮かんでくるんだ。ソクラテスがいってるだろ。知らないということを知っているかどうかが賢人か否かの分かれ目だって。知れば知るほど知らないことが増えてくる。中途半端な智慧でなにを伝えるの?そんなら本なんて一冊も読まないほうがいい。俺もまだまだ全然ダメだけどな。
――桃山さんが上京した時はすでに政治の季節が終焉し、若者たちが目標をライフスタイルの拡充に求め始めました。いわば異議申し立ての旗をたたんで、社会に投降するかたちで。
俺は大学いってないからピンとこないけど、たぶんそういうことだったのかな。芝居や映画とはまだ出会ってなかったけど、音楽に関してはいろんなこと考えていた。俺なんか、社会に強烈な否を再度つきつけた、パンクロックの登場までの空白の世代だよな。日本では中途半端な反逆としてのニューミュージックの台頭と大人になっていく時期が重なってんだ。あざとい都会人(自分では文化的と勘違いして、ドヤ顔をおしつけてくる)が跋扈してくる。こじゃれたサブカル系の半端な知識でわかった気になりたいなら、北山耕平(元宝島編集長)あたりに騙されとけば。なにがマリファナで開放だ。あいつら、百害あって一利なし。即死刑!(国家の死刑は反対だけど)
――過激な言動は白井聡みたいに炎上しますよ。
ユーミン批判だろ。俺は荒井由実をブティックで買ってくる(中村とうようの都市音楽享受への警告)ほど能天気じゃなかったし、細野晴臣も坂本龍一もピーターバラカンも、ついでに松岡正剛も(頭がいいから)ずっと警戒してきた。白井が「死んでくれたほうがマシ」とつぶやいて炎上したのは媒体を間違えただけ。SNSは瞬時に全世界にアナウンスされるからね。彼女の頭が悪かったことへの失望でしょ。それくらいいいじゃん、ユーミン死なないし。ま、死んでゆく奴に「死」という言葉を使うのはどうかとおもうけど。
――ネットでの情報お嫌いですもんね。ラインも絶対やらないし。
おまえらにガラパゴスって馬鹿にされてもな。GAFAは利便性以上にマジでヤバいと思ってるからね。インターネットの技術は知らないほうがいいの。めんどくさい、旧世代だからリテラシーもないの。情報戦でゼレンスキーに先手とられてるプーチンみたいだね。情報操作の方法がダサすぎる。
――そんなアナログな副司令官ですが、楽しい質問に移りましょう。いちばん好きな作家は?
山上たつひこ「冒険ピータン」先生(桃山は山上だけは先生と呼ぶ。本棚には彼の著作だけで百冊以上並んでる)に無断で勝手に台本にして、おまえを主役にしただろ。
――うれしくはありませんでした。
あれ以降だよな。被り物役者としての地位を獲得したの。
――思い出したくありません。話題を変えます。いちばん影響を受けた音楽家は?
ナイジェリアのフェラクティ。二十歳前後、生意気ざかりには衝撃だった。プロテストが歌詞じゃなくてビートにあるんだよ。「カラクタショウ」は芝居のラストにも使ったな。これも無断借用だけど。
――桃山さんの大好きなフランクザッパを僕も凄いと思って聞きましたが、直後に見せてもらったフェラのライブにはぶっとんだ。プリテンシャスなところがひとつもないのにカッコいい!
おまえに音楽がわかるなんて驚きだよ。
――写真家なんかはどうですか?
いっぱいいる。日本人なら、鈴木清、鬼海弘雄、(おふたりとも既にこの世にいないが、いまでもご遺族とは親しくさせてもらっている)川田喜久治。去年発見された津軽のブリューゲル、工藤正市もいいね。
――ついでに画家もあげてください
李朝の民画とか大津絵みたいな無名者が残したものかなぁ。なんか恥ずかしい部分を裸にされてる気分だぞ。エピソードじゃないじゃん。
――それは最終回に。ぼくは忙しいので左門が担当します。
まだ続くのか、いいかげんにしろよ。