『報告・凍りつく世界と対峙する藝能の在り処』


B5判 並製 108頁
監修:桃山邑
校正:原口勇希
デザイン・編集:近藤ちはる
発行:水族館劇場 2020年12月

■目次

はじめに
桃山邑 黙示録の時代に
菅孝行 <無頼の演劇>への応援歌
瓜生純子
「乾船渠 八號」ポスター
淺野雅英 続ける
宮地健太郎 いまあらためて
楠瀬咲琴 糸の重み
小林直樹 当事者性という炎
沼沢善一郎 芝居を観ているわけではない
鈴木亜美 私と「乾船渠八號」
近藤道彦 月並みだけど、感じたこと
津田三朗 「誰も触れてはならぬ」
原口勇希 野戰攻城2020日録―2020年2月14日~8月12日DRYDOCK NO.8 乾船渠八號以後の上演記録
二見彰 コロナ禍の世界で立ち止まらないということ
伊藤裕作 水族館劇場 2020 年春 花園神社 野戰攻城 歌日記 ならず者、われら破落戸<コロ憑き>ならず
千葉大二郎〈硬軟〉 雨傘の骨
ミズカンナ コロナによる自粛要請と監 視社会、それでも公演中止を望まず役者降板しなかった理由
宮崎シュト 2020年4月の矛盾の記録
藤中悦子 そう遠くはない未来に
杉原克彦 SEVEN DAYS WAR ♪を聴きながら
西表カナタ あるべき未来
田邊茂男 沢山考えました
田中哲 経済テロの特効薬
赫十牙 お寒うございます お暑うございます
風兄宇内 乾船渠八號 DRY DOCK No.8 2020 年新宿花園神社 特設野外儛臺
七ツ森左門 動きつづける
松林彩 本当にやったらいけなかったのかなあ
臼井星絢 2020 野戰攻城 乾船渠八號で思っていたこと
石井理加 制作覚え書き
秋浜立 街からひとがいなくなっても
千代次 叛・自粛
村田卓 「延期」「中止」の雪崩れ。最後に花園だけが残った
椎野礼仁 千代に八千代に千代次!
梅山いつき 歩きながら考えたこと― ―身体のわずらわしさとこれからの劇場
毛利嘉孝 新たなパンデミックの時代に
資料・乾船渠八號

■はじめに

この春の野戰攻城「乾船渠八號 DRY DOCK NO.8」公演不能の事態を承けて、水族館劇場としての倫理と責任をずっと考 えつづけて来ました。芝居興行が持つ可能性としての「開き」が逆に災いし、わたくしたちは公演を断念せざるを得ませんでした。

全面中止にいたるまでのあいだ、たくさんの方々から激励はもちろんのことお叱りに近いご忠告もいただきま した。一月からの台本稽古、三重合宿、仮設小屋建設。幾度も引き返す関所を視野に討議しながら、それでも二一名の役者は最後まで劇場とともに在る道を撰びました。

世の中の混乱が、どれほどちいさな役者徒党に圧力となってのしかかろうと、冷静に情況の推移をみつめ、参画役者ひとりひとりの温度差も考慮し、一方的な決定の押し付けは避けたつもりです。途中、地方在住の役者に本隊のほうから合流断念を要請したのは、未成の観客との黙契を果たすという決意性で開幕の継続を強制したくなかったからです。とうぜんのことですが集団内部にも個々の事情があります。みずからの疾患と長く付き合わなければならない者、老齢の肉親とともに暮らす者。否、わたくしたち自身が世間からみれば高齢者集団に映るでしょう。けれども神社側からの強い撤退勧告が出されるまで、興行を自粛することは考えませんでした。中止以降も わたくしたちは神社に居残り、野戰攻城を続けました。同時に個々の環境、考えの違いから公演に臨む態度に正反対の距離が生じたことも事実です。

ふたつの態度を別けたものはなにか。イデオロギーでもなく、現実理解の深度でもないとし たら。わたくしたちはいまだにこの距離を重く受け止め、頭をかかえながら前に進もうと思っています。そのために何を為すべきか。羽鳥書店の協力ではじまったパンフレットはこの百年、誰も経験したことのなかった感染パンデミックに振り回されながら、首都の片隅で野営した藝能集団が感じたことを声として後に残すために編まれました。

いちばん撰んではならない道は、病原菌をめぐる解釈と態度に違いがうまれたとしても、それを規準としないこと。分断を招来する過ちこそ、芝居者として生き続ける意思が遠ざけなければならない敗北であると身に染み込ませること。

ですから本文は、一 枚岩の強固なメッセージでつらぬかれているわけではありません。依頼した書き手全員にお願いしたのは、それぞれの立場で自由な思いを述べて欲しいということだけでした。複数の角度からの検証こそが、未来をきり拓く鍵になると信じて、 ささやかな言葉の花束をお届けします。

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