2017寿町公演「盜賊たちのるなぱあく」建込み
桃山特別インタビュー 聞き手 七ッ森左門
――こんにちわ。七ッ森左門といいます。
知ってるよ。入団13年目だろ。おまえ、どうでもいい自己紹介で原稿の字数稼ぐなよ。邪悪だな。
――すみません。今回は水族館劇場の長い歴史のなかでのいくつかのエピソードをお話しいただければ。
おまえの失敗の記憶しか思い出せないよ。
――そんなこと云わずに。それ以外をなんとか面白おかしく。たとえば旗揚げ当時の大八車の旅のこととか。
最初は歩いても歩いても公演場所がみつからず、途方にくれたなぁ。
――受け手はいなかったんですか?
津田君(特殊造形担当の準メンバー)と理和ちゃん(驪團時代からの、桃山のサポーター)が博多にいて最終公演を企画してくれたけど、それは筑豊地帯を巡演してきて無事に凱旋したときのご褒美。水上公園というところでやったんだよ。噴水にガソリン仕掛けて炎を立てて爆弾三勇士の話しにしたもんだから、その後二度と使えなくなった。
――ひどいですね。
おまえに云われたくないよ。
――炭鉱地帯をまわっていたときの受け手は?
そんなのいない。いきあたりばったりだもの。八木山峠を荷車ころがしてたろ。何度もダンプに轢かれそうになった。運転手は唖然としていたよ。時代錯誤もはなはだしい。町に降りたら山村工作隊と間違われたりして。でも最後は杉山さんという、鉱夫あがりの親分が親身に世話してくれた。旅役者から忠隈炭鉱に居ついた公民館長を紹介してくれたり。数年後、飯塚にテント芝居もっていった時は出世したと喜んでくれて町の人たち全員観に来てくれた。千人近かったから、テントに入りきれない。サイドのシート全部落として外からも観てもらったよ。
――仁義をわきまえた親分だったんですね。副司令官もそれに応えた。美談ですね。
よせ。おまえが解説すると大事な思い出が色褪せちゃうから。
――ではそもそもの始まり、大八車での炭住めぐりのエピソードに戻しましょう。
水非常(坑道落盤)が起きた場所で公演した時のこと、生き埋めにされた坑夫たちへの鎮魂のつもりで情宣してなかったから誰も観に来ない。あたりはまっくら。近くを旅公演してた風の旅団(現・野戦の月)の大造さん(曲馬舘時代の先輩、桜井大造)が駆けつけてくれて、車のライトで芝居を照らしてくれた。見てくれは強面だけど、意外と優しいんだよ。昔、金がなかった時も何度もご飯たべさせてもらった。
――苦労したんですね。
おまえに云われたくないよ。
――普段の寝泊まりは?
無人駅とか橋の下だよ。中間(谷川雁のサークル村があった)って町に着いたとき、雨がざんざん降ってきてさ、町内会館のひとが見るに見かねて雨宿りさせてくれたんだ。
――昭和の終わり頃はまだ人情が残っていたんですね。
ところが二日たっても三日たっても止んでくれない。だんだん気まずくなってね。こっそり夜中に逃げ出した。
――ずぶ濡れじゃないですか。
乞食稼業って意識が強かったんだろうな。いまの奴らは恵まれているよ。現場に家まで用意してもらって。
――そうやって炭住から炭住へ歩き通したんですね。
最初はどうやっても、幕を張れる場所をみつけられなくて右往左往した。
――誰も観てないんだし、こっそり東京に帰ろうと思わなかったんですか。
おまえだったら巡演したって捏造して逃げ帰ったかもな。凱旋のフリをして。
――そうです。そうです。
そうしなかったのは、きっと楽しかったんだろうな。何の見返りも期待せずにその日の芝居のことだけ考えてたんだ。秋の空が清々しかったなぁ。
――限界芸術としての大衆の原像を観ていたんですね。
そういう物言いしかできないからおまえは寿町のおっちゃんに嘗められるんだ。
――そうかもしれません。それから東京にもどってテント劇をはじめ、アングラ色を排除、徐々に独自な藝能論を確立していきましたね。それは同時に拡大路線を進めてゆくことになる。
最初はテント、ちっちゃかった。客も集められていなかった頃に、千代次の知り合いが竹本信弘(滝田修)さんを連れてきてくれたんだよ。デッチ上げで5年の刑を喰らい、出所したばかりでさ。あなたがたの芝居はけなげだって云ってくれたのを覚えている。ちょっと嬉しかったな。いま、羽村に来て昔の気持ちを取り戻せたような気がするよ。ここなら動員とか算盤はじくこともない。時間をかけて自由にできる。
――過ぎ去りし日々へのノスタルジーですか?
馬鹿。未来をみているんだよ。水族館劇場の。俺はもういなくなるの。
――35年間、お疲れさまでした。ククク。
邪悪な笑みだなぁ。そんなにおまえを叱るやつが消えるの、うれしいか。
――めっそうもない。これからも存分に𠮟り飛ばしてください。慣れっこにならないように。
とうてい信用ならないね。
――長い歳月振り返ってみて、最後に一言どうですか。
大笑い。35年の馬鹿騒ぎ。
――「仁義の墓場」ですね。ではお名残惜しいですがこのへんで。台本早くあげてください。